世捨て人の暮らしぶり

自営業でコピーライターやってるよ。東京と静岡に住んでるよ。ドラムを叩くよ。面白そうな書き仕事なら世界中どこでも行くよ。Twitterは(@mush_me)、Instagramは(chappy__0927)、その他の連絡は→shotasato4@gmail.com だ!

一杯の味噌汁

結婚を迫る年頃の彼女に「もうフラれてしまうかもしれません」と怯え「でも手取り二十二万なのに結婚なんて無理ですよ」と俯いていた取引先の社員が突如結婚を決めた。

 

七三分けに黒スーツと黒縁メガネ、ストライプ柄の安いネクタイを締めた彼の名は祐一。僕の取引先である広告代理店の社員で「すみません」が口癖の二十八歳だ。

 

大学を出て新卒で広告業界へ。三年経っても成績が上向かない祐一は二年前、営業の肩書きを外されディレクターという都合の良い名前の役回りを得たが、その実は単なる客の御用聞きだ。

 

創造力ある人を羨み、「基本的には」と話し始める彼の応用力は乏しい。おまけに細かい仕事までザルなもんだから、彼を進行管理のディレクターにしたその会社からは「一度雇った社員はおいそれクビにできないからね」という苦悩がうかがい知れた。

 

そんな彼が担当する案件の一つに僕が外部のコピーライターとして仕事をさせてもらいもう二年近く経とうとしている。

 

ドラクエでいえばメダパニ。そう、僕が知る限りの彼はメダパニにかかり続けている。メール見落とし、誤案内、書類不備はお手の物。口下手で緊張しいの彼はプレゼン中によくフリーズして「助けて」の視線を僕に送ってくる。

 

それにも関わらず僕が送った請求書を華麗にスルーするからメラゾーマ。請求書未処理によって支払いが遅れた時はさすがに怒ったが「腹を切ります」と言わんばかりの謝り方は超一流だから許してしまう。

 

とはいえその数分後には、スマホゲームで声をあげて喜んでいるのだから詰まるところパルプンテなのだろう。悪意がないからタチが悪いのだが、根は家族想いの優しいやつだし、愛嬌もある。そして何より嘘をつかない。だから僕は祐一のことがなんだかんだ好きだ。

 

そんな彼にも大学時代から付き合っている彼女がいる。最近は互いにいい年になったせいか彼女からも結婚をほのめかす発言が増えており、期待に応える素振りのない祐一はいつも腹を立てられてばかりだという。

 

そんな祐一が結婚を決断するまでの経緯が素晴らし過ぎたので今日は最近マイブームである手紙形式で、祐一結婚のあらましをまとめてみたいと思う。

 

ーーー

 

祐一、客先出て開口一番「結婚することになりました」ってな。ビックリしたけど俺は嬉しかったよ。おめでとう。そのときのお前は今ままで見たこともないくらい良い顔でな。迷いが晴れた人間っていうのはあんなにイキイキとするもんなんだな。

 

俺はずっとお前が悩んでたの知ってたから、なんか自分のことのように嬉しかったよ。そのあと、時間無かったからとりあえず飯だけ食おうってサイゼリヤに入ったよな。

 

いつも「金ないっす」って500円のランチしか頼まないのにお前、あの日だけなんで躊躇なくわかめサラダとカルボナーラのダブルサイズ頼んだんだ?報告は嬉しかったけど、あの奢られて然るべきみたいな態度、奢るつもりだったのにイラッときたぜ。まあいいよ。

 

祐一、飯食ってる時さ、何でいきなり結婚決めたんだ?って俺が聞いたの覚えてるか?あのときのお前の話、俺は若鶏のグリルチキンを切りながら涙を堪えたよ。

 

仕事辞めようと思ってたんだってな。憧れの仕事だったけど自分には向いてないって。お前が言うように広告の仕事は応用力というか説得力というか、知識やフレームワークだけじゃ通用しないから大変だよな。

 

当たり前のことをドヤ顔でプレゼンしはじめたと思ったら、案の定客に突っ込まれてフリーズ。お前のそんな瞬間たくさん見てきたけど、お前がいつも一生懸命だったの俺は知ってるぞ。先月は担当も変えられたって?ショックだよな。謝りに行った新しい上司がお前の同期っていう話も笑えねえよ。

 

祐一、でもお前の彼女めちゃくちゃ良い子じゃないか。打ちのめされて狭いアパートに帰ってさ、はじめて彼女に「もう仕事辞めるわ」って愚痴ったんだってな。そしたら意外にも「合う仕事見つけたらいいじゃない」って反対しなかったらしいじゃないか。仕事やめたら結婚だって遠のいてしまうのにさ。

 

自分の都合差し置いて相手のこと考えてやるなんて、本当に好きでもなければそうそう出来ることじゃないよ。

 

その日は外食する予定だったのに彼女パッと買い物行って飯作ってくれたんだって?それでお前、自分の好きな具いっぱいの味噌汁を一口飲んだら「結婚しよう」って言葉がホロっと胸に降りてきたって。それで仕事も踏みとどまったんだよな。お前その話、俺には響いたよ。

 

翌週、雀の涙ほどしかない貯金叩いて指輪を買ってな。プロポーズする場所探すために一人で目黒川沿い2時間歩いたんだって?迎えた当日は普通を装ってな。いつも行く居酒屋で彼女にぶつぶつ文句言わせた後、散歩しようって二人で目黒川歩いたんだよな。

 

アテをつけてた橋の真ん中。お前、どんな気持ちだったよ?相当緊張したろ。「一生大切にするので、僕と結婚してください」ってプロポーズ。何の捻りもないけど、お前らしくていいじゃないか。彼女大泣きしながら喜んでたって。そりゃそうだよ。

 

男よりも女の方が精神年齢は高いからな。女は男より先が見えてるんだ。だからお前が結婚どうしようって悩んでいる間、彼女はお前の数十倍の不安と戦ってたんだよ。それでも祐一、お前は決めたんだ。本当にカッコ良いと思ってるよ。

 

「仕事もろくにできないくせに」って周りからは嫌味言われたらしいけど、そんなの気にすんなよ。会社上場させるやり手もいれば、自分の好き勝手やって飯を食う自由人もいる。でもな、嫁さん大事にするのだって同じくらい立派なことなんだからさ。

 

俺がさ、若鶏のグリルチキン切る手を止めて拍手したらさ。お前めちゃくちゃ嬉しそうな顔してな。今後の予定、堰を切ったように話はじめたよな。

 

「式はハワイで挙げようと思ってまして!東京では1.5次会みたいな感じでやろうと思ってるんですよ!新婚旅行は今話し合ってるんですけどヨーロッパとかいいなって!」

 

おい祐一、嬉しいのはわかるけどちょっと気が早いんじゃないか。そんな結婚式やって新婚旅行ったら数百万はかかるぞ。もうちょっと仕事頑張って二人で金を貯めてそれからだろう?そう聞いた後のお前の言葉、俺は忘れないよ。

 

「そこは親が出してくれるんで」

 

ボンボンだったのかよ、なあ祐一。それは先に言えよ。ふざけんなよ。よくよく話聞いたらお前の彼女の家、笑えないくらいの金持ちじゃねぇかよ。マジでふざけんなよ。

 

結婚の報告を受けた時な、お前に何をプレゼントしようか俺は真剣に考えたよ。Yシャツの胸ポケットに刺さったボールペン。◯◯薬局って書いてあるから。お前が仕事でナメられないようにMont Blancのボールペンプレゼントしてやろうと思ってたんだ。

 

なあ祐一、大抵の男は彼女から結婚って言葉が出ると預金残高と給与明細がフラッシュバックして脳のフリーズ機能が悪気なく作動してしまうもんなんだよ。ところがお前はどうだ。一体何に悩んでたんだよ。なあ、教えてくれよ。

 

でも家柄は生まれ持ったものだからな。別にいいと思うんだ。俺はこの一年間、人生の先輩として悩めるお前の良き相談相手のつもりだったけどな「ごちそうさまでした」って帰っていくお前の後ろ姿を見て、お前の方が一枚上手だったことに気づいたよ。なんか、ごめんな。

 

P.S  祐一、この話気が向いたらいつかのトークライブで擦らせてもらうかもしれないよ。良いネタの提供ありがとな。結婚おめでとう。これからもよろしく。

 

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