世捨て人の暮らしぶり

自営業でコピーライターやってるよ。東京と神奈川と静岡に住んでるよ。ドラムを叩くよ。面白そうな書き仕事なら世界中どこでも行くよ。Twitterは(@mush_me)、Instagramは(chappy__0927)、その他の連絡は→shotasato4@gmail.com だ!

4、傷は舐め合って暮らそうか|【私小説】金はあるのか?

半人前と半人前が賭け合わさるとマイナスになってまうのが仕事の怖いところ。傷の舐め合いは情けないのかもしれないけど、そうでもしなければやってられない夜が誰しもあるでしょう。少なくとも僕はそうでしたね。

 

あと、男っていう生き物は上手くいかないことがあると女に逃げるという都合の良い習性が本能的に備わってるんじゃないかと勝手に思ってます。今回はそんなお話です。若かったな〜。

 

 

 

今回から読み始めたという方は過去話からどうぞ〜↓

 

1、夢にまで見た正社員

 

2、嘘つきは営業のはじまり

 

3、仕事はファッション

 

 

 4、傷は舐め合って暮らそうか|【私小説】金はあるのか?

 

ジリジリと大音量で鳴り響く午前六時のアラーム。もうこの時間に起きる必要はないと気づいたのは、いつものごとく飛び起きて顔を洗い、おろしたてのYシャツに勢いよく袖を通した後だった。

 

ため息をつきながらシャツを脱ぎ捨て、もう一度ベッドに潜り込んだがすでに目は冴えている。仕方がないので脱ぎ散らかしてあったジーンズを履き、手を伸ばした先にあるバンドロゴの入りの黒いTシャツを着て散歩に出かけた。

 

中野通りの街路樹は万緑の候。どこに行ってもいいはずなのに足が向いたのはいつもの通勤路だった。スーツに身を包んだサラリーマンたちは一斉に中野駅へと向かう。昨日まではこの景色に溶け込んでいたのだろうかと妙な疎外感を覚えたが、自由を手に入れたばかりの僕にとってはむしろ少しだけ誇らしかった。

 

駅前をウロいてひとしきりサラリーマンを見送った後は、コンビニで紙とペンを買って家に戻る。心なしか足取りは軽い。アイスコーヒーをコップに注いでタバコをふかし、これからの算段を洗いざらい紙へと吐き出した。

 

とりあえず合コン営業で知り合った社長連中を上手く使えばそこそこ仕事は入るだろうから、インターネット広告の運用代行とコピーライティングで飯を食っていこう。

 

そうだな、軌道に乗ってきたらWebサービスでも作ろうか。一発当たれば上場だって夢じゃないよ。紙面上では億単位の大金を稼げたし、若くして大成功を収める青年実業家にもなれるのだから楽しくて仕方がない。

 

思い立ったら即行動。僕は「名ばかり社長」とフォルダ分けした電話帳に片っ端から電話をかけて食事の約束を取り付けた。

 

自分よりも身分の低い人間を囲っては知り得る限りの浅知恵をひけらかしてアイデンティティを保つ若社長に取り入る方法は一つ。どんな時も「教えてください」スタンスを崩さないことだ。

 

我が物顔で語っている財務諸表の見方は電車の中で読んでいた日商簿記三級の参考書に書かれていた内容だったが「僕の財産は社長とお知り合いになれたことです」と返しておく。金をよこせ。腹の中では何を思っていても良いのだからストレスは溜まらない。

 

小銭用に若社長連中と繋がった後は「◯◯さんは僕の知り合いでね」と誇張の果てにウソとホントの境界線を見失った「アイデアおじさん」フォルダに電話をかける。

 

「アイデアおじさん」とは名の売れた企業を退職して人脈で食いつないでいるおじさんだ。特定の技術や商品は持たず、紹介マージンを頼りに暮らす彼らにとって僕のように実務を背負い込む手駒はあって困ることはない。

 

「◯◯さんとこと◯◯さんを引きわせて十億のプロジェクトを立ち上げる」といういつもの壮大な儲け話の進展はあり得ないのだが、上手く付き合っていれば数万円の仕事がポロポロとこぼれてくるからありがたい。

 

媚びるのは不本意だったが背に腹は変えられない。僕は食いつなぐための策を次々と実行に移しては仕事を作り、何とか生活ができるところまで漕ぎ着けた。とはいえ来月はどうなるかわからない。そんな焦燥感を拭い去りたいがために僕は人に会い続けた。

 

異業種交流会は釣り堀。笑顔を撒き餌に釣り糸を垂らしたがその日の収穫は望めそうになかった。催事として設けられた女性起業家のスピーチに飽きて会場の隅にある喫煙所でタバコを咥える。火をつけようとしてライターを取り出すとたまたま居合わせた端正な顔立ちの若い男が「火、良いですか?」と親指を動かしながら話しかけてきた。

 

勝也と名乗ったその男は仕事の肩書きこそ広告代理店のWebデザイナーだったが、小さい会社だけに営業から制作、広告運用までを一人でこなしているらしい。

 

「こういう見栄の張り合いみたいなところは苦手なんですよね」と話しかけてきた勝也に、僕も全く同じ意見であることを伝えると彼はにっこりと笑って話を続けた。

 

「あのスピーチしている女の人いるじゃないですか。ちょっとした知り合いなんですけど、まだ会社登記しただけの段階ですよ。しかも旦那さん銀行員ですからね。旦那さんの稼ぎありきで起業論語られてもリアリティーないですよね」と勝也。

 

僕が「自己表現なのかもしれないっすね」と返すと、勝也も「そっすね」と一生懸命スピーチをしている女性をぼんやりと見上げながら頷いた。そこからしばらくの間その場で話し込んだ。勝也の年は僕の一つ下の二十五歳。役者をやっていたが夢半ばで諦めて今の会社へ就職し、近いうちに起業しようと思っているとのこと。

 

僕と似たような境遇だっただけに親近感が湧き、交流会が終わった後はビールが180円で飲める新宿の居酒屋「やまと」へ。勝也は東京生まれの富山育ち。夢を諦めきれず四十歳まで鳴かず飛ばずの舞台役者を続けた父の都合で小学校の頃に東京から両親の地元である富山の港町へと移り住んだらしい。

 

あちこちから借金をして開業した居酒屋は夫婦で切り盛り。小学校が終わると店へ向かい、両親が仕込みに精を出している横でカウンターに座って宿題を済ませる。店が忙しくなれば小さなウェイターとして客席まで料理を運んでお手伝い。常連客のおじさんには可愛がられて機嫌が良い時には小遣いをもらえたそうだ。

 

勝也は店の残り物で父が作る晩飯を毎日楽しみにしていて、お手伝いのご褒美は三個百円の小さなプリンを一つ。狭い1Kのアパートで川の字になって眠るような生活だったが慎ましやかでとても幸せだったと勝也は少し遠くを見つめながら語った。

 

しかしそんな暮らしも長くは続かず。やがて訪れたのはバブル崩壊という未曾有の不景気のはじまりだった。地方とてその影響は大きく、店は閑古鳥が泣く開店休業状態。

 

仕込みの時間に心地よく響いたまな板を叩く包丁の音は母のため息へ変わり、返済に終われた父は金策に奔走。電話越しに頭を下げる父の姿は見てはいけないものだと幼いながらに察し、勝也は電話が鳴るとカウンターに突っ伏して寝たフリをしたという。

 

ある店休日、勝也が学校から直接家へ帰るとアパート前には黄色のテープが貼られ救急車とパトカーで道が埋め尽くされていた。住んでいた部屋には警察らしき人が大勢出入りしている。野次馬の中から聞こえてきた「男の人が首吊ったって」という声はいたく無機質で、今でも頭にこびりついていると勝也は笑いながらビールを口にした。

 

その後、勝也は女手一つで育てられたがグレることもなく高校を卒業して単身上京。進路は役者と決めていたらしい。偉大な父を魅了し、苦しめた役者の世界はどんなものか知りたかったというのが志した一番の理由だそうだ。

 

とはいえ、興味本位で通じる世界ではなかったと勝也は振り返った。養成所を出て劇団に所属し、様々なオーディションを受け続けるも結果は振るわず。六年間の下積み生活を経て足を洗い、今日に至るというわけだ。

 

僕も家族で倉庫暮らしをしていたこと。借金苦で一家離散になったこと。バンドをやっていた時のことを語りお互いに一通りの自己紹介を済ませた。酒も進んできた頃、勝也はやや顔を赤らめながら「何で独立しようと思ったんですか?」と僕に聞いてきた。

 

「いい服着て、いいもの食って、いいとこ住むのがステータスみたいな。それ興味ないなってね。もっと面白くて夢のある生き方もいいんじゃないかって。ただ文句言っててもしょうがないからね。とりあえず自分の力で飯食うところからはじめてみようかと」

 

そう僕が答えると勝也は相槌を打ちながらも切り裂くような目つきで語り始めた。

 

「俺は金ですね。別に贅沢したいんじゃない。金を稼ぎたい。芸術でもビジネスでも夢叶えた人ってみんな金持ってません?努力は報われるとか言うけど、あれ努力の方向逆だったら面白いなって。金稼ごうとした先に夢があったっていう逆説は否定できないでしょ」

 

夢はあるのか?と問う僕と、金はあるのか?と説く勝也。その議論は尽きることなく朝まで続いた。帰り際、勝也は朝日に目を細め気持ち悪そうにえずきながらも「俺、今から会社辞めてきますわ」と言い放ち、勢いよくその場を立ち去っていった。

 

一ヶ月後。「今日で最後だから退職祝いに飲みましょうや!」と勝也から連絡が入った。この先について聞いたところ自分が担当していた取引先に独立後契約を切り替えてもらうよう手を回したので、とりあえずは食いつなげるとのことだった。

 

「お前、それさすがにマナー違反だろ」と僕が言うと「いやいや、大丈夫っす。マナーは違反しても点数引かれないんで」と平然と言い切り笑った。

 

それ以降、僕はコピーライター、勝也はWebデザイナーとして時に協業しながら頻繁に顔を合わせるようになった。しかし、お互いの生活状況は飯が食えるか食えないかギリギリのところだ。

 

やがて居酒屋へ通う金も失くなって僕が引っ越しを考えはじめた頃、勝也も生活苦から三軒茶屋にあった自宅を引き払い、家賃半分払うからと半ば強引に僕の家へ転がり込んできた。

 

仕事が無い日は朝からPS3を起動してウィニングイレブンを夕方まで協力プレイ。コンピューターの強さレベルをMAXにして、日本代表でインターナショナルカップ優勝を目指した。腹が減れば買い溜めした安いカップラーメンを啜り、冷凍庫で凍らせたズブロッカをロックで煽りながらこれからの仕事や自身の展望について一流経営者のように語り合うが、酔っ払いすぎて毎度の会話は記憶に残らない。

 

そんな自堕落な生活を続けるうちに二人で割った家賃ですら捻出が厳しくなり僕は車を売却。飯を食うにも困るような日々だったが、隣を見れば同じような境遇の輩が酔い潰れて床に転がっているのだから不安はない。

 

男二人の遊びにも飽きてくると女探しにと中野・高円寺あたりの飲み屋を徘徊。勝也は女性グループがいるとトイレに入って長い髪と表情を整え、色男の役を作って帰ってくる。そして途切れた会話の切れっ端をつまんで滑り込むように会話へ加わり、いとも簡単に引っ掛けるのだ。僕も負けじと張り合ったが勝也の甘いマスクには到底叶わないので、援軍として会話を盛り上げる役に徹した。

 

「自営業です」と名乗ったときの「若いのにすご〜い!」という声に僕らは気を良くしたが、実は地雷扱いされているのだと気づくまでには少しだけ時間がかかった。そんな毎日を繰り返していたある日、僕が一人で家に帰ると先週飲み屋で仲良くなった女の子が一人でソファにポツンと座っていた。

 

僕が唖然としながら「え?」という顔をすると「この間はどうも〜!アカネだよ!」という能天気な挨拶が帰ってきた。とりあえず発泡酒を渡してこの家に居る理由を聞いてみると、勝也からここへ居るように言われたとのことだった。

 

しばらくして帰宅した勝也は「ビックリしたっしょ。一応、彼女的なね。うん、よろしく!」と。いつも以上に爽やかな勝也の口ぶりは静かな勝利宣言のようにも聞こえて、僕の心には敗北感が滲んだ。

 

アカネはBARでアルバイトをしながらダンサーを目指している子で、母の再婚相手の男から虐待を受けた過去を持ち、高校を卒業するなり実家を飛び出した訳アリ娘。以降、頻繁に僕らの家へやってきては僕と勝也のためにご飯を作ってくれた。

 

何を炒めたのかもわからないほど黒く焦げた野菜に焼肉のタレをかけた料理をアカネは「ガパオライス!」と言い張る。絶対に違うとは思っていたものの、味は悪く無いので文句が言えなかった。

 

気づけばアカネも家に入り浸るようになり謎の三人暮らしがはじまる。僕と勝也が生活費を賄うかわりに洗濯物と食事はアカネの当番。三人の休みが合えば一緒に出かけ、体の弱いアカネが体調を崩せば、勝也の代わりに僕が看病するという日もあるから家族ごっこみたいで面白かった。

 

ある日、アカネのダンス仲間のバーベキューパーティーがあるということで三人で横浜へ向かった。場所は横浜駅東口を出てすぐのところにある雑居ビルの屋上。ダンサーのパーティーらしく会場は綺麗にライトアップされていて、テーブルの横には氷水に浸された無数のハートランドとハイネケン。装飾にもオシャレの限りが尽くされていた。

 

パーティーがはじまると会場では僕の苦手なダンスホールレゲエが流れる。さらに居合わせた女の子から「レゲエ聞く?」と聞かれてボブ・マーリーと答えると「それってダンスホール?」と聞き返されるのだからシャットアウトだ。パーリーピーポー役を演じきれる勝也はその場を楽しめているようで羨ましかった。

 

僕はそんな調子だから次第に話す相手も居なくなり、ぬるくなったハイネケンを口に含んでは一人横浜の夜景を眺める。いつ終わるかと1分おきに時計を見ながら小一時間ほど経った頃、ふと気づくと僕の横にはダンサーとは思えないほど地味な女の子が座って、挙動不審な様子で烏龍茶をちびちびと飲んでいる。

 

「ダンサーさん?」と話しかけると顔を上げながら「あ、プログラマーです〜」とその子は笑顔で答えた。おっとりとした口調はきっと彼女の性格を表しているのだろう。身長の見立ては150cmあるかないか。小柄だが艶めいた長い黒髪がとても綺麗で肌の色は透き通るように白い。人の良さが滲み出たような優しい目つきが印象的だった。

 

「飲みにいかないか?」考える前に口を突いた言葉に自分でも驚いた。その子は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした後、あたふたとした様子で「え?あ、でも私今来たばかり…」と濁したが「大丈夫、大丈夫。ほら行こう!」と遮ってみる。名前も知らないその子の手を引いて、僕は行くあてもないまま横浜の街を歩いた。

 

 

続け…

 

 

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