世捨て人の暮らしぶり

自営業でコピーライターやってるよ。東京と静岡に住んでるよ。ドラムを叩くよ。面白そうな書き仕事なら世界中どこでも行くよ。Twitterは(@mush_me)、Instagramは(chappy__0927)、その他の連絡は→shotasato4@gmail.com だ!

3、仕事はファッション|【私小説】金はあるのか?

僕が飛び出したビジネスの世界では、モテたいがためにファッション感覚で仕事をする若いイケイケお兄さんが結構いたんですよね。そんな中に混じって右往左往した日々はドブさらいをやらされてるかのごとく居心地が悪かったのですが、さらったドブをふるっていったらコピーライティグなんていう素敵な仕事に巡り会えました。そして会社を辞めました。という、一貫して朝令暮改を実践し続けている僕の昔話です。

 

 

 

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 3、仕事はファッション

 

飲みたくもない缶コーヒーを啜り白い息を吐きながら手を温め、恵比寿駅にほど近い小さなオフィスビルの下で約束の10時を待った。一人で挑むはじめての営業先はホームページ制作会社で、詐欺さながらのテレアポトークをもって漕ぎ着けた先だ。

 

「相手の時間を奪うのはマナー違反。早く着いてもインターフォンは約束の時間1分前に鳴らせ」何もしらない僕に社会人のいろはを教えてくれているのは、上司にあたる徳井さん。徳井さんは大学の時に訪問販売のアルバイトでトップセールスマンとなり、その資金で求人フリーペーパーを発行するなど学生起業家として活躍してきた猛者だ。

 

徳井さんの言う通り1分前にインターフォンを鳴らす。怪訝そうな顔つきで出てきた相手はフリーターのようなヨレヨレの服を来た髭面の男だったが、交換した名刺には代表取締役という肩書きが綴られていた。

 

「はい、10分。時間ないから」とフリーター社長が愛想ない一言から商談はスタート。僕は限られた時間で内容を伝えるべく、持ってきた提案書をフリーター社長に差し出して話はじめた。するとフリーター社長は話半分といった態度で提案書をめくり、一通り見終わると僕の話を遮り言った。

 

「で、リスティング広告ってうちの場合どうやるの?」。僕はもらった!という表情を精一杯隠しながら「御社のページを解析した上で広告の初期設定を行い、キーワードを適宜変更し…」と話したところで再び腰を折られる。

 

「いやいや、そんなの知ってるよ。おたくは具体的にどうすんの?って聞いてんの。あと3分」と言うフリーター社長の勢いに押されて、僕はナインで運用しているホームページ制作会社のリスティング広告運用の具体的なノウハウについて話をした。

 

するとフリーター社長は「あ〜、なるほど。そういうやり方があるのね。じゃあそれうちでやるわ、ありがとね。はい、帰っていいよ」と席を立ち、玄関へ向かう。僕が急いで荷物をまとめ後を追うと、フリーター社長は追い出すかのように僕をあしらった。エレベーターに乗って時計を見ると、まだ15分も経っていなかった。

 

ナインに帰ると「そんなクソだせぇペラペラのスーツ来てれば客にもなめられるわな!」と高城社長は不機嫌だった。購入したオーダーメイドのスーツが来るのは三週間先なので仕方ないのだが、僕は「すみません」と機械的に一言詫び二次災害に備えた。

 

それから午前中はテレアポ、午後は営業という流れで2週間ほど過ごすと、営業力もついてきたのか何とか1件の契約が上がることができた。顧客は高田馬場にあるパソコン修理店。だが広告の運用額3万円、ナインの利益はわずか6000円という極小案件だったため、社内には「おめでとう」に先駆けて笑い声が響いた。

 

ある日、契約が伸びないと徳井さんに相談してみたところ「やり方を変えてみれば?別にテレアポじゃなくても契約取れればいんだから、異業種交流会か何か行って約束取り付けて営業したらいいんだよ」とアドバイスをもらう。

 

徳井さんは起業家時代のツテを頼りに紹介伝いで営業を続け、着々と契約を重ね続けているが僕にそんなマネは出来っこない。異業種交流会という響きには宗教勧誘のような怪しいイメージしかなかったが、丁度オーダーメイドのスーツも上がってきた。モノは試しにと行ってみることにした。

 

六本木の交差点から少し入ったところにある小洒落たカフェバーを貸し切って異業種交流会なるものが行われていた。ドアを開けてみると着飾った男女が、気持ち悪いくらい不自然な笑顔を振りまいて名刺交換を行っている。

 

僕と同い年くらいのビジネスマンも多かったことから、あたかも慣れてますといった顔つきで名刺交換にチャレンジしてみたが、もらう名刺は「代表取締役」「執行役員」「事業部長」といったものばかりで怯んだ。社会出て数年でそこまで出世できる強者がを目の前にして、自分のキャリアを恥じたからだ。

 

名刺交換をした際にWeb制作会社を名乗る25歳社長は僕を見て言った。「そうだ、部下も紹介させてください。彼は優秀な男でして、今度一つ事業を任せようと思っているんですよ。何かありましたらお力添えをお願いします」。

 

その25歳社長は高そうなストライプのスーツに身を包み、その後も色んな人に部下を紹介して回っていた。ただ、その様子は少し滑稽にも見えた。年上の部下を優秀と紹介することで、「そんな自分はもっと優秀なんです。25歳で社長ですよ?」と暗に偉ぶっている様が見て取れたからだ。

 

後日、高城社長に「交流会に同じ年の社長がいっぱいいたんですけど、そんなすごい人たちなんですか?」と聞いてみた。すると高城社長はハナで笑った。

 

若者社長の実態は、渋谷がビットバレーと呼ばれた2000年前後のITバブルの残骸らしい。要はバブルで一儲けした凄腕社長連中が税金対策として行った事業分社化によって雇われ社長が一気に増えたという経緯があるみたいだ。

 

「年収4~5百万でも若けりゃ十分。おまけに偉そうな役職ついて名刺切れるんだからファッション感覚で仕事している奴は飛びつくだろうな。中にはキレ者もいるだろうが、大半はお前と変わらんただの若造だ」と高城社長。

 

思い返してみれば、接した社長連中はどこかビジネス本をなぞったようにフワフワとした話しぶりだったし、高城社長や徳井さんの持つ鋭いソレとは似ても似つかない印象が残った。とはいえ社長は社長、少なからず決裁権は持っているはず。

 

そこで僕はある作戦を閃いた。彼らにとってビジネスは大事だが、自己顕示欲を満たしたいという欲求の方が強い。そんな彼らを満たすもの。それはオーナーの元に流れていく金よりも「女」だとアテをつけた。

 

そんな背景から考えついたのが「合コン営業」だ。要は知り合った若い社長や役職者連中へすぐに営業をけしかけるのではなく、合コンをワンクション挟むことで特別感を演出し、受注率を上げようという作戦。僕の感じたことが確かならば、若い社長や役職者連中は必ず落ちるはずだ。

 

それから僕は足繁く異業種交流会に通い、偉ぶる若者の名刺を集められるだけかき集めた。名刺を交換した後に一声かけることも忘れない。「すみません、プライベートの相談なのですが、うちでアルバイトしている女子大生からベンチャー社長を紹介してくれと頼まれてまして。食事会を設けたら来ていただけますか?」断る者はいなかった。

 

あとは女子大生を揃えればいい。ナインへアルバイトで来ていた上智大学の理沙ちゃんに「ベンチャー社長と合コンやるけど友達集められる?」と持ちかけると「奢りならいいですよ〜」とまんざらでもない様子。いざ合コンをセッティングすると社長連中、女子大生ともに楽々人は集まった。

 

女子大生には「来年には社長夫人になってたりして!」と焚き付けておいて、社長連中には露骨に会社を褒めて花を持たせる。僕はピエロを演じて、女子大生と社長の話がうまくつながるようにその場を盛り上げればいい。お開きが近づけば「社長すみません、ちょっと今月成績が厳しくて。明日の午後、営業させてもらってもいいですか?」と耳打ちしてアポを取る。これも断る者はいなかった。

 

実際に営業に行けば「◯◯ちゃんとはどうなったんですか?」とプライベートの話でアイスブレイクをした後はお構いなしにゴリゴリ営業。代理店の乗り換えこそ苦戦したものの、新規の案件はほぼ100%に近い確率で受注に至った。

 

そこからは僕の仕事は合コン幹事がメインに。昼はアルバイトの女子大生とランチに出かける。身銭を切るのはベンチャー社長に当てがう友達を紹介してもらえるからだ。そのうち、社長連中は名刺など集めずとも紹介だけで人を確保できるようになった。夜は週3回ペースで合コンを開催。会が終われば翌日訪問する営業先の資料を朝までに仕上げるべく会社に帰る。

 

こんな生活を3ヶ月も続けるうちに僕の成績はウナギのぼりに増えていった。実績が上がるに連れて腹の底から湧いてくるのはどす黒い自信。ウブロの時計はここぞという時にしかつけなかったが、高い時計をつけているというだけで、相手からの印象は180度と変わる。高城社長が言っていた「人は見た目で判断される」という意味がわかった。

 

同年代のビジネスマンを相手にするのはお手のものだった。年の近い経営陣を営業する際はサービスの説明など後回し。この商談で契約を取った後、僕に入るインセンティブの仕組みを話して「金をくれ」と言わんばかりに荒ぶってみせた。

 

通常なら無礼極まりない話だが、若者社長の目には「こいつは面白い」と映る。なぜなら、型破りを好む単純な性格の持ち主が多いからだ。

 

さらに「金を稼ぎたい」「起業したい」と荒ぶった夢を語る無謀な若者を演じて見せれば、そのうち「お前、うちに来ないか」という話になる。ここまで評判を高められれば合格ライン。人脈を少し突けばザクザクと紹介が溢れるからだ。

 

僕と徳井さん、高城社長によってナインの売上は順調に積み上がり、勢いづいた高城社長は印刷工場を持ち紙媒体を扱う小さな広告代理店を買収。赤字続きで身売りを考えていたところ、経営者を泣かせて安く買い叩いたらしい。

 

買収した会社のクライアントからもインターネット広告運用を受注し、紙媒体も手がけるようになったナインは新規で採用した社員の増加も相まって急拡大。オフィスは四谷三丁目にある小綺麗なビルへと移転した。底辺営業だった僕にも部下がつき、社長得意のどんぶり勘定によって給料はグンと増えた。

 

バンド時代に作った借金を完済が見えた頃、家賃5.5万円の高円寺のアパートを出て中野にある家賃13万の2LDKのマンションに引っ越した。狭い1Kの部屋で暮らした日々の思い出は忙しさに追いやられ、誰かの顔すら色褪せていくのだから悲しくもない。

 

新しい部屋には50型の大きなテレビに革張りのソファ、部屋の照明にも金をかけて車は三菱のレグナムを購入した。どれも欲しかったわけではない。ただ、皆が話すように良いところに住んで美味いものを食べてそれなりに自分を飾り立てれば、ビジネスを自己表現とする人たちの気持ちがわかるような気がしたからだ。

 

しかし、肝心の仕事には飽きはじめていた。誘われるを飲み会に顔を出してさえいれば、紹介をもらえるからそのうち合コン営業などする必要なくなった。紹介による営業はほぼ100%の確率で契約が決まるのだから大した苦労もない。

 

「あの人は営業が強い弱い」などと戦闘力のように例えて受注一つに一喜一憂している学生ノリで営業するメンバーのマネジメントには興味が持てず。見かねた僕は「営業は独立採算制にしましょう!」と社長に直談判するが、急成長に伴い組織化を進めていたナインでその話は通らなかった。

 

それでも食い下がってみると「じゃあ、違う仕事してみろ」とマネージャー職を外され、営業から広告運用まですべて自分で行うという誰の管理下にもない何でも屋のような仕事を任された。

 

相変わらず社内はわいわいがやがやと大学みたいな雰囲気。高城社長もそんな若いビジネスマンの統制を取るべく、飲み会や部活動などレクリエーションを取り入れ社員の定着と能力の均一化に努めていた。

 

そんな中僕は営業の傍、リスティング広告のキーワードや広告文の作成、バナー広告やWebサイトのコピーライティングなど社内のWebデザイナーと協業して制作の仕事をするようになった。

 

たった数文字変えるだけで反応が数倍にも膨らむコピーライティングの仕事はとても刺激的だったし、何よりインターネットを介してモノが売れていく仕組みが面白くてたまらなかった。それからは国内外のマーケティングやコピーライティングの本を読み漁り、朝から晩まで広告をイジくり倒した。

 

自分の作ったWebサイトへ広告を使って大量のアクセスを流し込む。数日経って解析すると1000人に10人しか買わなかったページが、文章の構成や言い回しを変えるだけで5倍以上にも脹れ上がる。こんなに楽しい仕事はないと思った。

 

とりわけ面白かったのが読者の心理状態を想定しながら相手を口説いていくように作るセールスコピーと呼ばれるものだ。自分の作った文章がきっかけでモノが大量に売れていくと、営業で大きな契約をまとめた時のように脳みそがトロける多幸感を味わえた。

 

とはいえお祭り騒ぎが続き危機感のない社内の居心地はすこぶる悪く、組織化によって生まれるルールの数々に僕は馴染めず。人も増えて高城社長とも話をしなくなると会社への興味も失せ「自分でやった方が儲かるよなと」と独立思考に切り替わった。

 

それからは独立を視野に入れながら始発で会社へ行き提案書を作って昼間は営業。夕方返ってきて朝方まで広告を作るなど黙々と仕事をこなしてスキルを磨く。一通り準備が整うと社長室へ出向き、独立しますと理由を述べて辞表を提出。「そう甘くないぞ」という高城社長の言葉を振り切って会社を後にした。

 

こうして1年足らずで僕の正社員生活は終わりを迎えた。耳鳴りがするような会社の閉塞感から解き放たれた僕の心は清々しく晴れ渡っていて、これから何をしてやろうかなどと不確かな未来に想いを馳せた。

 

続け…

 

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