世捨て人の暮らしぶり

自営業でコピーライターやってるよ。東京と神奈川と静岡に住んでるよ。ドラムを叩くよ。面白そうな書き仕事なら世界中どこでも行くよ。Twitterは(@mush_me)、Instagramは(chappy__0927)、その他の連絡は→shotasato4@gmail.com だ!

1、夢にまで見た正社員|【私小説】金はあるのか?

ギリ高卒でバンドマンだった僕が言うから落ち着いて聞いて欲しいんですけど、学歴社会ってすごい平等だと思うんですよ。いや、ほんとに。僕たまに仕事で求人広告を作ったりするんですけど、例えば項目に「大卒以上」ってあるでしょう。

 

あれは知識量とか頭の良さについて言ってるのではなく「うちはちゃんとした人しか雇いませんよ」っていう企業の意思表示なんですよね。大卒ではない人たちを傷つけないようにわざわざオブラートに包んだ気遣い溢れる表現の一つなんです。僕は傷つくタイプなんですけどね。

 

あなた耐えてきましたか?って。嫌なことでも一生懸命できますか?って。自分で自分のこと管理できますか?って。社会ってそういうところですよ?って。今も昔も学歴ってそういう「ちゃんとした人」の証明代わりだし、社会の救命胴衣だと思うんです。

 

だから夢があろうが運が悪かろうが家庭の事情だろうがそこに溢れたのならもうそこは自己責任の世界。慎ましく暮らすも良し、夢を追いかけるも良し。一度きりの人生好き勝手やりましょうやというピカピカのレールが地上に敷かれてるわけですよ。はい。

 

ただ、そのレールの上を歩くなら常に付きまとうのがお金の問題。もちろん例外はありますけどね。僕はもうこれが煩わしくてしょうがなくて。好き勝手生きるのは譲れないけど、金の問題でアレコレは耐えられないという素直の日本代表的な性格をしてまして。

 

しかし、バンドを卒業したばかりの僕にはそこに答えなど見出せず。じゃあどうするかって「とりあえず稼いでから考えようぜ」ということで、泣いて暮らした高円寺のワンルームを出て右左上下すらわからないビジネスの世界へ飛び込んだわけなんですよ。

 

するとそこは天地覆る冥界。地獄の業火に心を焼かれ、稲妻で切り裂かれた両腕にマキロン。そこらを歩けば焼け野原を彷徨う屍にカツアゲされるも、腰ミノまではいらないと突き返されプライドまでもぺらぺらに。女子大生がキラキラと輝く澄み渡った空の下に戻ってくるまでには十年の歳月を要しました。ええ。僕の一人劇場ですけどね。

 

二兎を得ようとした者の末路やいかに。まだ完結してなかった話だから人に話したこともあまりなかったのですが、つい先日ふとしたことがきっかけで決着がつきまして。例の如くエモい気分になりましたので、得意の面白悲しい私小説にしてしまおうと書くことを決めた次第です。

 

今回のタイトルは「金はあるのか?」。これは夢・愛・金といった僕を苦しめ続けるけしからん課題についての総称で、この十年で僕なりに捻り出した一つの答えみたいな話になるかもしれませんが、人様の人生について是非を問うものではありませんので話半分で読んでくれたら嬉しいです。

 

それよりも僕を含めた悲しき登場人物が何を想いながら冥界での日々を過ごしたのか。そんな情緒や心の機微を楽しんでもらえたらいとおかしです。

 

P.S この話はフィクションです。二回言います。この話はフィクションです。

  

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夢にまで見た正社員

 

午前8時の満員電車。イヤホンで耳を塞ぎ目を瞑った若い女性の顔はどこか疲れていて、腹の出た中年男性の咳払いとともに漂ったのは昨日を洗い流した酒の残り香。すし詰め状態の車内は居心地の良い場所ではなかったが、正社員デビューの今日を楽しみにしていた僕にとってこの日の満員電車と黒いスーツ姿は少しだけ誇らしいものだった。

 

JR四谷駅の四谷口を降りて履きなれない革靴の踵をカポカポと鳴らし、四谷見附の交差点を渡る。細い路地を入ったところにある雑居ビルの階段を三階まで駆け上がり、勢いそのままにドアノブに手を掛け重い鉄の扉を開けた。「おはようございます!」

 

「お〜、そういえば今日が初日だったな」と机に突っ伏したまま寝ていた高城社長は顔を起こした。僕が「よろしくお願いします!」と頭を下げると「おう〜、よろしく」とあくびをしながら高城社長は答える。

 

バンドとアルバイト経験しかない25歳の僕が就職先に選んだのは学歴不問・未経験歓迎という謎の条件で正社員を募集していたインターネット広告代理店「ナイン」。

 

具体的に何をしている会社なのかはわからなかったが、その他の目ぼしい仕事はほとんど大卒以上だったことから応募が出来なかったのだ。そのため「正社員ここぐらいしかないし、インターネットだし何となく生きる術が身につきそう」という安易な理由から電話をかけてみることにしたのだ。

 

うす汚れたアルバイト経歴をむりくりまとめ、履歴書を手に挑んだ面接では「バンドやってました。ドラム叩けます。日本三周しました」という何の役に立ちそうもない自己紹介が社長のツボにハマって大笑い。「よくわからないけど面白そうだからいいよ」という気分採用に至った。

 

広告代理店ナインは中小企業というより小企業でメンバーは、34歳の切れ者高城社長、社長直属のアシスタント白岩くん。事務兼何でも屋の早希さん、3日前に転職してきた元・学生起業家の徳井さん、そして高卒バンドマンの僕しかいない。

 

全員が出社した後、朝礼で高城社長は言った。「今日から新人が入ったからよろしく。じゃあ徳井、佐藤。とりあえず今月は300万ずつな。いってらっしゃい」朝礼が終わると早希さんと白岩くんは無言のまま席につき、PCのキーボードを小忙しく叩き始める。

 

徳井さんもすぐに準備を済ませ「いってきます」と勢いよく会社を飛び出した。しかし、僕は何をすれば良いのかさっぱりわからずその場に立ち尽くす。すると早希さんがやってきて「はい、これ」と僕の名前が入った名刺と提案書を数部のみ机に放り投げていった。雰囲気から察するに「これで営業に行ってこい」ということらしい。

 

「い、いってきます」と声をかけて会社を出る。とはいえ、どこに行けば良いのか何を売るのか皆目見当もつかない。「バイトでも研修ってあるよな」とは思いつつも、研修なんていう甘い環境が存在するのはアルバイトのみ。ハイレベルな仕事をする正社員は自分で考え行動するものなのだと気を引き締め直した。

 

まずは何をいくらで売るのかくらい理解しておかないことにははじまらない。僕は駅前のドトールに入り早希さんからもらった提案書を開いた。表紙にはこう書いてある。

 

【リスティング広告運用のご提案】

 

「ふむふむ…リスティング。ほぉほぉ、リスティングね」さっぱり意味がわからなかった。リフティングでもなければラフティングでもない。リスティング、おまけに広告ときた。苦し紛れに次のページをめくるも聞きなれない横文字が飛び交い頭痛が痛んだ。

 

これは恥を忍んで聞かねばなるまい。僕は踵を返した。「ずいぶん戻ってくんの早いな」と高城社長。すかさずリスティング広告とは何かを教えてくださいと頭を下げて頼んでみた。すると次の瞬間、バコン!と頭頂部に衝撃。ふと前を見ると、高城社長は鬼の形相でメガホンを手にしていた。

 

「そんぐらい知っとけ!ボケカス!じゃあお前、何で会社出てったんだよ!」怒号が飛んだ。出会って数回の人間に惜しげも無く怒りをぶちまける高城社長の表現力にたじろいだが、僕は落ち着ついて考えた。正社員とはこういうものなんだ。

 

満員電車には辛そうな顔をしたサラリーマン風の人々がたくさんいたじゃないか。皆同じだ、そう、これが社会ってもんなんだ。僕は自分に言い聞かせた。

 

「すみません!ボケっとしてました」と頭を下げて謝ると「白岩!このバカに説明してやれ!」と高城社長。その際、なぜか白岩くんもメガホンで頭を叩かれていた。

 

Yシャツと肌の色の区別がつきにくいと言えば大袈裟だが、色白ノッポの白岩くんは僕と同い年の25歳で社長直属のアシスタント。高城社長のデスクに常備してあるメガホンが平に変形するくらいの期待を一手に引き受ける立派な正社員だ。

 

「さ、佐藤くん。よ、よろしくね」どもり癖のある白岩くんは何かに怯えたような話し方で僕にリスティング広告の説明をしてくれた。白岩くんの話によると、リスティング広告とは検索エンジン内の特定キーワードで、自社ページが上位に表示されるように設定する広告とのこと。

 

つまり、ダイエットサプリを売っている会社なら「ダイエット サプリ」というキーワードの上位表示を狙うことでダイエットサプリ購入を検討して検索してくる人の目に止まりやすくなり、売上にも繋がるという全体像だ。

 

このリスティング広告を企業に代わってナインが運用することで入ってくる報酬は初期設定の10万円に加えて運用広告費の20%を手数料としてもらい受ける。要は広告運用額100万円の企業と契約できれば初月に30万。これを月に10件ほど契約してこいというのが徳井さんと僕に課せられた目標だ。

 

一通り白岩くんからの説明が終わると高城社長は「おい、テレアポだテレアポ!アポ取ってから営業行け!飛び込みは効率が悪いからな」とアドバイスをくれた。僕は自席に座りパソコンを立ち上げる。高城社長からの指令は、NTTの電話帳に掲載されている企業を上から順にどんどん電話をかけて売り込んでいけというものだった。

 

言われた通りに受話器を上げて番号をダイヤルする。「あ、もしもし〜。私、ナイン株式会社というインターネット広告の運用を行っている会社の佐藤と申しますけども…」「ガチャッ!」。「あ、もしもし〜。私、ナイン株式会社というインターネット広告の運用…」「ガチャッ!」「あ、もしもし〜。私、ナイン株…」「ガチャッ!」。

 

営業電話を無下にガチャ切りしていた母親の顔が目に浮かんだ。営業は難しい…そう思いながら次の番号をダイヤルしようとしたところ、今度は側頭部から稲妻が走った。

 

「こらボケカス!なんで電話する先が豆腐屋なんだよ!街の豆腐屋がリスティングやるわけねえだろ!」同時に怒鳴り声が聞こえてきた。「上から順にどんどん電話しろというので…」と答えると高城社長はメガホンで僕の頭をまた一つ叩いて続けた。

 

「いいか、お前。営業っていうのはまず誰に売るかが重要なんだよ。インターネット使って広告したら儲かりそうなところをある程度絞っていかないと話にならんだろ!」

 

そこからある程度インターネットで調べながら電話をかけるようにした。しかし、飲食・小売・サービス・製造…様々な業種にアプローチするもアポが取れる気配はない。一週間が過ぎる頃にはもはやアポが取れる気すら起きず、ただ淡々と断られるだけの日々を過ごすうちに自分の顔から表情が消えていたことに気づいた。

 

するとある日、高城社長は僕の目の前で電話をかけはじめた。「お〜、久しぶり。俺、俺。うん、いつも悪いんだけどまた一人送るからさ。3ヶ月くらい面倒見てやってくんないかな。うん、ビシバシ頼むわ。」

 

僕が受話器を片手に目をやると高城社長は立ち上がり僕を見下ろしてこう言った。「荷物まとめろ。今日からお前の職場は新宿だ。俺のコネで超優秀な電話営業の会社に預けてやるから、そこでトップ取って帰ってこい。3ヶ月経ってもトップ取れなきゃクビだ。お前みたいなポンコツバンドマンはそんくらいやって人並みなんだよ!」

 

「バンドマンは関係ねぇだろ」という一言が飛び出す寸前だったがなんとか堪えた。その後、高城社長に連れられ向かったのは東新宿にほど近い雑居ビルの最上階にあるワンフロア。入り口にはカードリーダーのセキュリティーがついていて、中に入るために迎えに来たのは高級スーツに身を包んだ三十歳手間くらいのビジネスマン、柳瀬さんだった。

 

髭面でつり目の柳瀬さんは紳士的な口調で言った「佐藤くん、今日からよろしくね」。優しい笑みがこれだけ似合わない人がいるものかと驚いた。柳瀬さんの案内でオフィスに入る。そこでは200名近い営業マンが一心不乱に電話をかけていた。

 

そして次の瞬間。ゴン!という鈍い音が聞こえて横を向くと、くたびれたグレーのスーツを着たおじさんが若いホスト風の男に胸ぐらを掴まれ「テメー、もういい加減死ねよ!」と罵声を浴びせられながら壁に叩きつけられていた。

 

少しして解放されたおじさんは半泣きの状態ですぐ席に戻り、力ない手つきで電話番号をダイヤルしはじめる。これアウトなやつじゃない?という考えがよぎったが、僕は高城社長の会社から来た人間。部外者がここまでされることはないだろうと願いにも似た予測を立てた。

 

呆然としていた僕を見て柳瀬さんは言った。「ごめんごめん、びっくりした?でもね、ここではしょうがないの。年齢もキャリアも関係ない。契約取った奴が善で取れない奴は悪だからね。佐藤くんも、頑張ってよ〜。」

 

「よし、じゃあとりあえずここで営業成績トップ取ってこい。あとここ19時までしか電話できないから。終わったら会社に戻ってこいよ。雑用あるからな。」高城社長は笑いながら僕に言葉を投げかけ、その足でオフィスを後にした。

 

少しだけ。ほんの少しだけ。大嫌いだったライブハウスが恋しくなった。

 

続く… 

 

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