世捨て人の暮らしぶり

自営業でコピーライターやってるよ。東京と神奈川と静岡に住んでるよ。ドラムを叩くよ。面白そうな書き仕事なら世界中どこでも行くよ。Twitterは(@mush_me)、Instagramは(chappy__0927)、その他の連絡は→shotasato4@gmail.com だ!

はじめてのアコム

バンドマンシリーズ5回目。今回からみんな大好き借金のお話がはじまります。

 

やること無さすぎて秒針が額に刺さりそうなくらい暇という方は初回からご覧ください。

 

1回目

 

2回目

 

3回目

 

4回目

 

カッカッカッカッというクリック音に合わせてタンタンタンタンとスネアを叩いてキックを踏むだけ。薄暗い地下室にこもって行うドラムの地味な基礎練習は気が狂いそうなほど嫌いだったが、サボって「下手になったらどうしよう」という強迫観念に襲われるよりは、無理してスタジオに入った方がいくらかマシだった。

 

ゴン太が脱退してライブ活動が停止してしまった僕らだったが、たまじさんは相変わらずポジティブに行動した。彼は僕が練習している間にメンバー募集のチラシをスタジオに貼り、知り合いのバンドの打ち上げに参加してベーシスト探しに奔走した。

 

ところがある日、たまじさんから「チャッピー悪い、俺の代わりに今日の打ち上げ行ってくれないか」と一本の電話が入った。珍しいなと思い理由を尋ねてみると「今日だけは…そういう気分になれなくてさ…悪い…」と黄昏れはじめる。

 

明らかに「どうしたんですか?」を待っている様子だったので性格の悪い僕は「わかった、行ってくる」とだけ伝え電話を切ろうとしたが、たまじさんは「いや〜、俺が悪いんだけどさ…」と食いさがる。

 

仕方なしに理由を聞いてみると僕に電話をかける2分前に彼女にフラれてしまったとのことだった。たまじさんの彼女だった美雪さんは慶應大学4年生の22歳で僕より1つ年上。卒業後は大手不動産会社に就職が決まっているという容姿端麗エリート女子だ。

 

美男美女ではあったが資本主義社会においてなぜ二人のようなアンバランスカップルが誕生したのか。たまじさんの話を聞いて今更ながらそもそも論に思いを馳せた結果、二人の馴れ初めにヒントが隠されていた。

 

世間を知らないお嬢様だった19歳の美雪さんが友達とライブハウスを訪れた際、当時人気絶頂だったたまじさんの元バンドに心ときめくという盲目かつ蟻地獄な出会い。これこそが悲劇のはじまりだったのだ。

 

つい半年前まで「チャッピー、夢があるって素敵なことなのよ」と遠くを見つめながら語っていた美雪さんが別れ際、たまじさんへ涙ながらに伝えた最後の言葉。それは「先が…たまじとは先が…見えないの」という極めて夢のない一言だったらしい。

 

数日後、たまじさんの家に行くと机に置かれていたのは別れの危機を予感して取り繕ったのであろうハワイ・グアム・サイパンといった海外旅行のチラシ。俺様スタイルのたまじさんが年下のハイセンス系女子に媚びようとした跡がやけに悲しかった。そんな時、たまじさんの携帯に1件の着信が入った。

 

電話の相手がみゆきさんでないことはたまじさんの表情を見ればわかった。着信は渋谷のスクランブル交差点で乱闘騒ぎを起こしたMad squallsのマッカスからだった。

 

「え〜、マジで?ドラム抜けたの?Mad squallsもやばいじゃん!」たまじさんの言葉から彼らのバンドメンバーが脱退したという状況がわかった。

 

「そうか。ドラムは人口少ないから探すの大変だろうしなぁ。俺らもウッドベース探すの苦労しててさ。」そして彼は続けた。

 

これはもうあれか、俺ら合体するしかないか。なぁマッカス、そっちの二人と俺とチャッピーで新しくバンドやらないか?

 

僕は「失礼極まりないな」と眉間にシワを寄せてたまじさんを見た。すると彼は「俺、結構やるだろ?」と言わんばかりのウィンクを返してきて、つくづく僕らは意思の疎通が取れていないバンドだということを再認識した。

 

電話を切り終えたあとたまじさんは笑いながら言った。「ちょっと相談してみるとか言ってたけど押せばいけるよアレは。試しに1回ライブやってみようぜくらいで落としたらもうオッケーだ」。僕はきっと美雪さんもこうして口説かれたのだろうと想像した。

 

そして、たまじさんはとうとう僕に「どう?」の一言もないまま、直後に知り合いのイベンターへ電話して2ヶ月後にライブを1本ブッキング。僕は別れを告げた美雪さんの気持ちが少しだけわかったような気がした

 

後日、一旦4人で話そうということになり三軒茶屋のBARへ。メンバーは僕とたまじさん。渋谷で乱闘騒ぎを起こしたマッカス23歳、「世田谷には11人のゲイが居る」と嘘か本当かわからない自身のセクシャリティーを開けっぴろげに語るギタリストのエウヴィス26歳だ。

 

僕は彼らMad squallsの曲が大好きだったが、明らかに様子のおかしい二人の素性については完全にノータッチだったため、その場で一人緊張していた。

 

「バンド名どうするか?」たまじさんがこう切り出した。

 

「え?まだ4人でやるって決まってなくない?」マッカスが驚きながら返す。

 

「ライブ決めちゃったもん。とりあえず1回だけやってみよう」たまじさんが押す。

 

「エウヴィスさんはどう思う?」マッカスが聞いた。

 

「ん〜、まあいいんじゃない?でさぁ…」と性癖の話にすり替えようとしたエウヴィスを遮ってマッカスが「チャッピーは?」と聞いてきた。

 

僕は「せっかくだからやりましょう。面白そうですし」と返事をした。

 

こうして新しく結成した僕ら4人のバンドの名前は「DRAWS(ドロウズ)」。DRAW=描くから、新しいものを生み出すという意味を抜き出してその場でマッカスがつけた。

 

2ヶ月後に控えたライブに向けて僕たちは次の日、深夜新宿のスタジオに集まり早速音を合わせることに。とりあえずはたまじさんと僕のバンドから3曲、Mad squallsから3曲を持ち寄り、たまじさんとマッカスがそれぞれの曲でボーカルをとることになった。

 

僕は大好きだったMad squallsの曲を演奏できるということで楽しみだった。また、マッカスとエウヴィスは人格こそ破綻しているものの演奏力に長けていたのでそれもまたスタジオに入る魅力の一つだった。

 

はじめて合わせた曲はMad squallsの「GO AND GO」という僕の大好きな曲だ。僕がカウントを4つ入れて全員の音が重なった時、鳥肌が立った。ゴン太とは比べものにならないマッカスのスラップ、エウヴィスによるキレキレのギターリフ。バンド経験の浅い僕は「これがバンドか!」と他人と音を重ねることにはじめて喜びを感じていた。

 

そこから4時間。当初はゆっくり曲を煮詰める予定だったがそれぞれが相性の良さみたいなものを感じていたせいか全員が夢中で演奏し続けた。終わりかけにはマッカスが「チャッピーのドラム、すげえ弾きやすいし歌いやすいよ」と一言。僕は「そっちもやりますね」的な感じでクールに返したが、心の中では飛び跳ねるくらい喜んでいた。

 

それから僕は週5の個人練習、毎週火曜日と金曜日はバンド練習を行い2ヶ月後のライブに備えた。バンド練習は毎回順調で当初用意していた曲はすぐ仕上げることができた。

 

僕が経験したこれまでのライブは「ミスしないように」という緊張との戦いでしかなかったが、このバンドで練習を重ねる度に「早くこのライブを人に見てもらいたい」という前向きな気持ちに変わっていた。

 

そして迎えたライブ当日。場所は奇しくも僕が挫折を経験した下北沢屋根裏だ。また僕らはロカビリーバンドだったが、この日はたまじさんの知人主催のレゲエバンドイベントに無理やり入れてもらったため客層はいつもと異なる完全アウェイ。

 

ただ、今回もまた各バンドやイベンターの力で会場は100名超えで満員御礼。1年前とあまりに似た光景だったため僕は前回の演奏を止めてしまったシーンがフラッシュバックして怖気付き、緊張感が一気に高まった。

 

そんな中楽屋に帰ってみると、たまじさんは鏡の前でキメ顔を作り髪型をいじくり回すというナルシズムを全開に発揮し、マッカスはどこからか連れ込んできた女の子を口説き、エウヴィスは魚肉ソーセージを片手に対バンの男の子を追いかけ回していた。

 

以前は楽屋にタムロする派手な髪型の強面バンドマンに拒否反応を示していた僕だったが、それよりもはるかに気持ちの悪い人が自分のバンドメンバーであることを再認識すると、この1年の変化を感じることができて不思議と安心感が湧いてきた。

 

「DRAWSさんお願いしまーす」とインターフォンが鳴って僕らは5階の楽屋から3階のフロアへ向かった。人混みをかき分けてステージへ。僕らのことを知っているのはそれぞれのバンドのライブを見に来てくれていたお客さんと身内の10名足らず。客も完全アウェイなので人数こそいたものの、その場はしらけた雰囲気だった。

 

メンバーは自分のセッティングが済むとそれぞれが僕の方を向いて待機した。全員のセッティングが終わると僕がPAに向かって手を上げて演奏開始の合図を出す。音楽がフェードアウトするとともに両手でシンバルを打ち下ろしDRAWSの演奏がスタートした。

 

1曲目は様子を見ていた客も2曲からは体が揺れる。途中挟んだMCではたまじさんがこれでもかというくらい煽り3曲目、4曲目では前列が激しく盛り上がりはじめた。ドラムの位置からはフロア全体が良く見えて後ろにも笑顔の人がたくさんいた。最後の曲ではダイブしはじめる客まで出てくる始末。ライブは大盛況のうちに幕を閉じた。

 

ステージを降りて楽屋へ向かうときに待っていたのは見知らぬ人たちからの盛大に拍手。そんな反響のあるライブを経験したことのなかった僕はやや気恥ずかしく、目が合った人にだけ軽く会釈をしながら通り過ぎるのが精一杯だった。

 

「俺らは売れるな!」たまじさんが楽屋で堂々と言い放つ。僕はそんな甘くないだろと言いたかったが、タオルで隠した顔がニヤけていた。マッカスは「まあまあ良かったんじゃん」と照れ笑いに似た笑顔で返し、エウヴィスはうんうんと頷いていた。

 

その後、僕は早々にフロアへ。来てくれたお客さんにお礼を言いながら感想を聞いていると、トントンと後ろから肩を叩かれた。振り向くと見た目50代くらいのおじさんが立っていた。

 

「君、さっきのバンドのドラムだよね?ちょっといい?」おじさんはそう言って僕をライブハウスの外へ連れ出すなり名刺を差し出す。そこにはGREEN POINT Recordingsという会社名と西原という名前が書かれていた。

 

「DRAWSって言うんだっけ。レーベルはついてるの?」西原さんは質問を続けた。レコード会社の人ということは良い話なのかとも考えたが、この話が詐欺かもしれないと疑わざるを得なかったのは西原さんの不潔さと偉そうな態度に他ならなかった

 

「いや、僕らはレーベルどころか今日が初ライブですよ。どんなご用件ですか?」僕は返した。すると西原さんは話を続ける。

 

「僕ね、去年ソニーから独立してレーベルを立ち上げたんだけども、今うちからCD出すバンドを探してるのよ。君たちかなりウケてたからさ。うちから1枚出してみる気はないかなと思って」

 

僕はレーベルがどんな仕事をするのかよく知らなかったので「具体的に僕らは何をすれば良い感じですか?」と掘り下げて聞いてみた。

 

「君らはCD作ってライブする。うちは持ってるネットワークを生かして君らをプロモーションする。お金は山分け。単純に言うとこういう話かな。」

 

プロを目指してバンドをやっていたが音楽でお金がもらえるということをすっかり忘れていた僕は少しの胡散臭さを感じつつも、先ほどのライブの反響も手伝って「わかりました、やらせてもらいます」と即答。

 

あまりの話の早さにメンバーへの確認は大丈夫かと問われたが、メンバーにはまともな人が一人も居ないと説明すると「バンドってそんなもんだよな」と納得した様子。連絡先を交換すると西原さんはその場を後にした。

 

楽屋に戻って西原さんの名刺を渡しCDを出すことになったとメンバーに伝えると、たまじさんは呆れ顔で言った。「お前な〜。メンバーに何の相談もしないでよくそういう大事なこと勝手に決められるよな〜。」この人だけには言われたくない言葉だったが、僕はやり返した感があって誇らしかった。

 

そして後日、西原さんから電話がありメンバー全員と会うことに。「中華でも行こうか」と気前よく言い放った西原さんが用意した店は下北沢にある中華の超有名店、餃子の王将だった。

 

西原さんのレーベルが弱小であることを決定づけたのは「一人一品まで」という2度の念押しだ。僕らは不安になったもののその場でバンドの状況と契約内容、プロモーション、リリース日程などを擦り合わせ大方の段取りを決めた。

 

実績がないため初回のレコーディング費用はバンド持ち。CDの売り上げは30%が小売店、20%が流通会社、10%が西原さんで僕らには40%という具合に山分けする。

 

3ヶ月以内に10曲をレコーディングしてアルバムを制作。リリース日は6ヶ月後の5月12日。全国ツアーは西原さんが紹介してくれるイベントを除いて自分たちでブッキングする。話し合った末、ロカビリーバンドでは真似できない数を回ろうと35箇所に決めた。

 

先行き明るい話のようだが難点が一つ。お金だ。練習時間を考えるとアルバイトを減らす必要がありツアー車やレコーディング、その他諸費用を加えると安く見積もっても数十万円のお金が一気に飛ぶ。貯金など持ち合わせていない僕はこれまでのアルバイトで培った信用だけを頼りにはじめてのアコムへ。

 

年利は29%の意味はわからなかったが取り急ぎカードを作れば、限度額50万円の中から必要なときに必要なだけ引き出すことができるという。僕は試しに1万円を借り入れその手軽さに驚いた。まるでぬかるみに足を取られたかのように、僕は借金と手をつなぎながらズブズブと音を立ててバンドマン街道をゆっくりと歩き始めた。

 

次回:素敵なカンチガイ

 

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